その時、企画が動いた。

〜Orchestra Musikの歴史を瞬間で振り返る〜

Orchestra Musik Vol.1
「Orchestra Musik Summer 2007」

第1話「オーケストラを辞めた若者」

 「バイオリンを弾いていない。」
 JR摂津本山駅近くのスターバックスで本日のコーヒーを飲みながら(出てくるのが一番早いから、というのが選ぶ理由らしい)、まるで新聞のニュースか知人の近況を回想するように、林は自らがオケとの関わりを断ってもうしばらくになる事を思い出していた。クラシックは好きだ。近く、インバル・フィルハーモニア管弦楽団のマーラーを見に東京に行く予定を立てている。今年のハイライトだろう。素晴らしいコンサートに巡り合った後、楽器でその感動を表現してみたいという衝動に駆られるのは奏者として自然な感情だと考えている。

 「とは言っても、オケに入る程ではね。」
 日々の仕事や論文執筆の合間に、長期間に渡ってオケ活動に従事する事を考えると、音楽活動が億劫になってしまう。出費も少なくない。自由に旅行に行くこともできない。そんな考えを並べつつ、オケに入らない本当の理由は、「オケが楽しくないから」だいう事は、随分前からとうに気付いていた。3年半従事した大学オケの音楽活動では、かつて自分が感じていた、音楽活動の情熱や喜びを分かち合う感覚に乏しかった。部活動としてそれなりに楽しい事は多くあったが、果たしてそれで本当に十分だっただろうか。

 「ともあれ、何をするかが決まらないと。話はそれからじゃないか。」
昼下がりの妄想をコーヒーと一緒に飲み込んでしまおうとしたその矢先、
一瞬の思いつき。
 「そうだ。何をするかを決めて、それで人を集めれば良いんだ。」

 人を集めてオーケストラ企画を作るのではなく、企画で人を集めてオーケストラを
作る。
何ができるかわからないけれど、何かができるかもしれない。

 8月18日、盛夏。ただのアイデアが生んだ妄想が現実になるのは、その日から2ヶ月後の事だった。